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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  70

「老舗のオークションハウス」

2023/5/5小野寺綾子 / ヘルシンガー


老舗のオークションハウス

コペンハーゲン市内のアマリエンボー宮殿や大理石教会の近くに、1947年に創業した老舗のオークションハウス「ブルン・ラスムッセン(Bruun Rasmussen)」(以下BR)という国際的に知られたオークションハウスがあります。 画廊、骨董屋、デザイン家具店などが軒をならべるBredgadeの一角にあって、BRは古い大きな建物を2棟所有しています。

BRは昨年春に現在まで3代続いている家族経営の店がイギリスの大手オークションハウス「ボナムズ(Bonhams)」の傘下に入りました。 今年1月にその創業者家族がその経営陣から身を引くというニュースが流れました。 ボナムズは2001年に古い2つのオークションハウスが合併した世界的に大きなシェアをもつ会社です。 BRがイギリスの会社の傘下に入った理由は、やはりこれから顧客を広げ、国際競争を生き残るためだと予測されますが、BRの顔ともいうべき81歳のイェスパー・ブルン・ラスムッセンの姿が消えてしまうのは、残念なことです。

BRはデンマークの古典、現代絵画からデンマーク家具、工芸、東洋美術、ワイン、切手、時計、宝石など幅広いジャンルを扱っています。 近年ヨーン・ウッツォンの死後、息子のヤンは父ヨーン・ウッツォンが持っていたル・コルビュジエのタペストリーやブラックの絵、ピカソの壺やアールトの椅子などをBRで競売にかけました。 家具デザイナーのハンス・ウェグナーの生誕100年記念では、ウェグナーの家具だけ164点を集めたオークションがありました。 国際的に関心が高まっているハマースホイの質の高い絵画もかけられ、高値を記録しました。

オークションはオンラインで行うオークションと実際にBRの会場で行われるオークションと2種類あります。 常時オンラインで競売されるのはBRから少し離れた会場に実物があり、品物の質は公開オークションに出るものよりややランクは下がります。 定期に公開オークションで競売される絵画や家具などの内覧は、4日間BRの1階から4階まで全部の建物を使って、絵画、家具、銀製品などが所一杯に展示されます。 建物が古いため、たくさんの人が部屋を行き来すると少し床が揺れます。

オークションは内覧終了後の翌日から連続して4日間あります。 話題になった作品が出た時など、内覧は何度も行ったことがありますが、オークションは時間の関係で最後までいたことがありません。 先日時間が取れたので久しぶりに内覧とオークションに行ってみました。 内覧でオークションに掛けられる作品の作者、履歴、見積評価額など情報の記録された写真入りの厚いカタログがもらえるので気になる品をチェックできます。

今回のオークションの内覧は3月2日から5日まで行われました。 オークションは3月6日に古い家具や焼き物。7日に絵画、彫刻、写真。8日に装身具。9日にデザイナー家具や銀の工芸品。4日間で合計914点がオークションに掛けられました。 私はオークションの最終日3月9日16時から始まったデザイナー家具、銀製品に参加しました。 名物社長が退任するので、会場に沢山人が来ていると思っていましたが、椅子に座っている人はまばらでした。 会場の両脇にはオークションハウスの人がオンラインや電話で参加している人に対応しているブースが2つありました。 顧客がオークション会場に直接来て、競り落とす光景はもうありません。 品物がモニター画面上に表示されると、オークションハウスの人がオンラインできた顧客からの返事を、競売を仕切る人に伝言し、順番に競り落とされていきます。

今回のオークションで話題になったのは、田中敦子(1932−2005)の作品です。 田中敦子は関西の具体美術協会に参加して活動した芸術家で、最近国際的に再評価されています。 田中敦子の抽象絵画は、1960年代に東京でテキスタイルの仕事をしていたデンマーク人夫妻が、1968年にその当時東京の京橋にあった南画廊でデンマークまでの送料を含めて47万円で購入しました。 それ以来60年間その家族が所有していました。 アクリル絵の具で描かれた色鮮やかな絵はオークションカタログの表紙にも使われ、予想価格は600万クローネ(約1億円)でしたが、820万クローネ(約1億4千万円)で落札されました。 誰が買ったのでしょうか?

デザイナー家具は285点あり、その中でハンス・ウェグナーが1951年に発表した「Valet Chair」と呼ばれる腰掛部分が開き、物を入れられる子供用椅子は、予想価格は20万クローネ(360万円)でしたが、28万クローネ(520万円)で落札されました。 この椅子は1951年にあった家具の展示会にカイ・ボイセンがデザインした学習机と対で7脚出品されました。 その2脚を建築家で王立アカデミーの教授を務めたS・T・ラスムッセンの家族が長年所有していました。 その内1脚が競売に出ました。

オークションに上がったデザイナー家具はウェグナーが20点、フィン・ユールは15点、アルネ・ヤコブセン9点、ケアホルム5点、ポール・へニングセンのランプ10点。 フィン・ユールの「Poet」(1949年製造)は14万クローネ(250万)、ウェグナーの「New Papa Bear」(1960年代製造)は16万クローネ(280万円)、ケアホルムの「PK24」(1982年製造)は18万クローネ(320万円)、へニングセンの「PH2/2」(1930年製造)は17万クローネ(300万円)など人気のある家具デザイナーが多いです。 カイ・フィスカ—が1928年にデザインした銀の水差しは1万6千クローネ(28万円)で落札されました。

16時から始まった家具のオークションが終了したのは、あたりが暗くなった20時でした。 終わりになるにつれて会場は閑散として、オークションの成り行きを見ている人は5−6人でした。 人がほとんど居ない中、ハンマーをたたいてオークションを仕切る人はカタログの順番通り仕事を続けていましたので、ちょっと寂しい感じがしました。

今年の秋に新体制になったBRは歴史を感じさせる建物から引っ越して、コペンハーゲンの北15�qにあるLyngby市でオークションハウスを継続します。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

enlargeenlarge  写真はクリックすると拡大します。

■ 1794年に建てられた建物で、1947年に初代アルネ・ブルン・ラスムッセンがオークションハウスを始めた。

■ 1794年に建てられた建物で、1947年に初代アルネ・ブルン・ラスムッセンがオークションハウスを始めた。

■ 内覧:オークションで最高値を付けた田中敦子の絵。手前はハンス・ウェグナーの1951年にデザインされた子供用「Valet Chair」。さらに改良された1953年の「Valet Chair」。

■ 内覧:オークションで最高値を付けた田中敦子の絵。手前はハンス・ウェグナーの1951年にデザインされた子供用「Valet Chair」。さらに改良された1953年の「Valet Chair」。

■ 今回オークションの絵画部門のカタログの表紙に使われた田中敦子の絵。家具部門はハンス・ウェグナーの「Valet Chair」。

■ 今回オークションの絵画部門のカタログの表紙に使われた田中敦子の絵。家具部門はハンス・ウェグナーの「Valet Chair」。

■ 高値で落札された1951年の子供用の「Valet Chair」の写真解説。

■ 高値で落札された1951年の子供用の「Valet Chair」の写真解説。

■ 内覧:フィン・ユールの椅子コーナー。

■ 内覧:フィン・ユールの椅子コーナー。

■ 内覧:フィン・ユールが1941年にデザインした「Poet」。椅子は1945−49年の物。14万クローナ(250万円)で落札された。

■ 内覧:フィン・ユールが1941年にデザインした「Poet」。椅子は1945−49年の物。14万クローナ(250万円)で落札された。

■ カタログ:1930年代のP・へニングセンの卓上ランプ。17万クローネ(30万円)で落札。

■ カタログ:1930年代のP・へニングセンの卓上ランプ。17万クローネ(30万円)で落札。

■ 人がまばらなオークション会場。

■ 人がまばらなオークション会場。

■ 左上のモニター画面に競売にかかる物の写真と値段が表示される。

■ 左上のモニター画面に競売にかかる物の写真と値段が表示される。

■ カイ・フィスカ—がデザインした銀の水差し。

■ カイ・フィスカ—がデザインした銀の水差し。

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