ローマハウスとフレデンスボーハウス
ウッツオンが設計したローマハウスとフレデンスボーハウスは同じL字型で庭を囲む壁がある家ですが、二つの住宅の成り立ちは大変異なっています。
ローマハウスは建設当時、造船所に勤める若い労働者の家族向けに建てられました。 1963年に建てられたフレデンスボーハウスは、海外勤務から母国に帰った人が余生を過ごすための家で比較的裕福層の人が住む住宅です。
フレデンスボーはヘルシンガーから西に約15�qの距離にあり、女王が住む王宮がある静かな町です。 以前知人がフレデンスボーハウスに住んでいたので、何度か住宅に遊びに行ったことがあります。 フレデンスボーハウスは一般道から王宮に通じる道の入り口にあります。 所有者はDanes world wide 協会(旧名Dansk samvirke)と言い、1919年に始まった会員制の在外デンマーク人協会です。 活動は幅広く海外転勤で外国に住んでいる人に交流ネットワークを紹介したり、子供がデンマーク語を学べるようにオンライン教育をしています。 さらに帰国後に円滑にデンマーク社会に溶け込めるように、デンマーク語教育や生活面での問題解決のサポートや相談をしています。
フレデンスボーハウスに入居する人には、規則があります。 申込み資格がある人は60歳以上で5年以上企業、国際機関などで海外勤務した経験がること。 16歳以下の子供が在宅していないことです。
住宅はローマハウスと同じタイプのL字型庭付きの47戸、棟続きの二階建ての小さい家が30戸、敷地の中心部に集会所、レストランやゲストが宿泊できる施設を備えた建物があります。 住宅は賃貸で、113�uの家は月10833クローナ(約20万円)。 小さい住宅は73.3�uで、月6833クローナ(約12万円)。 そのほかに光熱費、暖房費、ケーブルテレビ代が掛かります。 家賃代は一般の賃貸住宅より安いので、申し込んでから入居するまで10年以上長い順番待ちがあります。
フレデンスボーハウスの特長は、きれいに刈り取られた芝生と対照的に立つ黄色いレンガの壁です。 住宅の前庭もきれいに刈り取られた生け垣があり、整然としています。 専任の庭師がいるので、春と夏は週に一回芝生を刈ります。 ウッツオンは手が上からの下に向けて開いたような形で、住宅を並べました。 瓦は壁に上に連続的に置かれているだけではなく、住宅の庭や集会所の庭では花壇などに装飾的にたくさん使われていて南ヨーロッパ風です。
庭付きの家の間取りはほぼローマハウスと同じですが、居間のガラスが7枚(ローマハウス5枚)と広いです。 入り口の幅が広く、建物の建付けがローマハウスよりしっかりしています。 外壁はローマハウスがレンガ1個分の厚さ22.5�pに比べて、30�pと厚いです。 ローマハウスは玄関を入ると右手に洗面所があります。 フレデンスボーハウスでは台所部分になり、窓の格子戸から公道が見えます。 ローマハウスと同様に台所とリビングルームの間を仕切る引き戸があります。 もちろん床暖房です。
30戸ある小さい住宅は細長く中二階があります。 入り口部分が深く窪んでいるので、そこが玄関の役割をしています。 ドア開けると船のキャビンのようにコンパクトにできた小さい台所があります。 白い3枚の引き戸で台所を隠すことができます。 左手に一部屋と洗面所、リビングルームに二階に上る木製の階段があります。 2階に一部屋と踊り場があり、庭のテラスは公道に面しています。 この住宅で3組が夫婦で、残りはすべて高齢者の女性が住んでいるとの事でした。
敷地の中心に「センター」と呼ばれる集会所があります。 内部はドア、天井、梁、階段などにオーク材がふんだんに使われています。 壁には過去に住民から寄付されたペルシャ絨毯、蛇の皮、お面などエキゾチックなものが掛けられています。 正面玄関の木製の戸は日本家屋によく見られる引き戸と似ていて、ウッツオン設計のバウスベア教会にも使われています。 一階に昨年秋にできたばかりの小さいウッツオン博物館、レストラン、集会室、暖炉がある談話室があります。 ウッツオンがデザインした茶色いラウンジ用の椅子とテーブルで統一されていて、階段にウッツオンがデザインしたランプが下がっています。 2階には談話室や事務局があります。 フレデンスボーハウスが開館50周年記念を祝った時、ウッツオンの娘のデザイナーリン・ウッツオンがデザインした赤い鮮やかな色の装飾壁が寄付されました。
住民は一か月に一人当たり12食をレストランで食べなければならない決まりがあります。経費は一か月1140クローナ(約2万円)。ワインの持ち込みが自由です。 食事は前もってメニューが出ますので、事前申込みをします。 この規則は一人暮らしの高齢者にとって一人で食事するより楽しくて、便利です。 住民は海外生活という共通の体験があるので、レストランは交流の場です。 住民が知り合いを連れて食事をすることは可能で、私もここで知人と食事をしました。 レストランは日曜が休みで使用していない時、住民は家族のパーテイで食堂を貸切ることができます。
ローマハウスには残念ながら住民の集会場がありません。 年次集会などの時は近くにある小学校の教務室を借りています。 過去にウッツオンに設計してもらう話や売りに出ているローマハウスを買い取る話があったそうですが、いずれも実現しませんでした。
最近フレデンスボーハウスをもっと知ってもらうため、集会所にウッツオン博物館が開設されました。 毎週木曜日の13時から16時まで、博物館が開きますので外部の人が集会所に入れるようになりました。 入場料は50dkr(約900円)で、コーヒーとケーキ付です。 ボランテアの人が住宅について説明してくれ、敷地を案内してくれます。 オールボーにあるウッツオンセンターが発行しているポスター、カードなどちょっとしたお土産品を販売しています。 話を聞いたボランテアのご婦人はデンマーク人の両親がミャンマーに転勤している時、ミャンマーで生まれました。 デンマークの寄宿舎で教育課程を終了後、外務省の仕事でイランに渡りました。 デンマーク人と結婚した後はご主人の仕事の関係で中近東、インドネシア、ブラジル、中央アジアと転勤していました。 もちろん海外に住んでいた時から、住宅の申込みを続けていたそうです。 デンマークに戻ってからこのフレデンスボーハウスでの生活が一番長いと言っていました。
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写真は全て小野寺綾子氏撮影
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