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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  68

「自然災害と建築 バイキング船博物館」

2022/4/25小野寺綾子 / ヘルシンガー


自然災害と建築 バイキング船博物館

デンマークは地震や河川の氾濫がなく、自然災害が少ない穏やかな国です。 しかし、この15年間ほど数年に一度の割合で晩秋、冬に台風並みの低気圧がくるようになりました。 特に海岸や湾で高潮などのために海の水位が上がり、湾岸や入り江の近くに建つ住宅が水害にあっています。 さらに夏に局地的な大雨で水が道路にあふれます。 暖冬で降雪が少なく、気温上昇による気候変動を身近に感じるようになりました。

2013年12月4日から6日にかけて瞬間最大風速36.6m/s 960ミリバールに発達した「ボーデル」という名前の低気圧が英国、北ヨーロッパ、南スウエーデンを襲いました。 強風のためデンマークでは1868年以来海の水位が2.6m上昇し、ロスキレ湾周辺にある約600戸の家が水につかりました。 特に同湾の一番奥まった岸に設計されているバイキング船博物館が高潮の被害にあいました。 風にあおられた波が博物館のガラス窓まで押し寄せ、海水が建物を侵食する被害が心配されました。 この時の写真を見ると建物の外には土嚢が積まれ、海に面したガラス窓から海水が入るのを食い止めるため、窓に沿って木製の板止めがおかれていました。 塩害を防ぐためバイキング船はすっぽりプラスチックシートで覆われました。

今年の1月末に「メリック」と呼ばれる最大風速34m/s の低気圧が英国、デンマーク、北ドイツを通りました。 デンマークではこの時水位が1.83m上昇しました。 ロスキレ湾にある以前水害にあった地域やバイキング船博物館の周辺の施設の水害を防ぐためにウオーターチューブと呼ばれる大きい長いホースが置かれました。 このチューブは設置や撤収が簡単で、チューブの中に水を貯め、水の重さで土嚢のように侵入を防ぐ方法です。 バイキング船博物館内では前回同様に高潮に備えてガラス窓から水が入るのを防ぐため、窓に向かって木製の止め板が並んでいました。 5隻の船はプラスチックシートで覆われていました。

2013年の水害経験から、博物館は毎年11月ごろから春にかけて窓ガラスに木製の止め板を備え付けることにしているそうです。 季節風が来ない夏は撤去します。 さらに広い窓ガラスから入るUV紫外線がバイキング船の保存にとって良くないとの事です。

1969年に開館したバイキング船博物館は1962年にロスキレ湾の海底に埋められた状態で発見された5隻のバイキング船を保存、展示している博物館です。 バイキング船博物館は代々の王族が埋葬されているロスキレ大教会と並ぶ観光の名所で、見学者の75%は外国人観光客です。 65号でご紹介したエリック・クリスチャン・ソレンセンErik Christian Søresen (1922−2011)の代表的な建物です。 ノルウエーにある高貴な人を埋葬したほぼ完全な形で残っているバイキング船とは違い、ロスキレ湾の5隻は1070年ごろ敵の侵入を防ぐために湾に埋められました。 博物館で展示されている5種類の船は掘り出された時原型をとどめていませんでしたが、パズルのように船の木の破片を集めて、1隻ごとかなり復元されています。

博物館はエリック・クリスチャン・ソレンセンの自邸にみられるように長い梁が力強く躍動的です。 バイキング船は小石を敷きしめた床に展示されています。 大小の船の高さが良く眺められるように建物に高低をつけたけ、縦長の空間です。 建物の海側はガラス窓です。 窓からさす光と曲線を描くシンプルな黒い船の対比がきれいです。 外壁を見るとこの建築家が得意とした均整がとれたモジュールを見ることが出来ます。 バイキング船博物館周辺の増築案は、1998年にエリック・クリスチャン・ソレンセンが提示していましたが、財政的な問題で実現しませんでした。 その後少しずつバイキング船博物館の周囲は船大工が見学者にバイキング時代の船の復元作業を公開している建物、植物の繊維で帆を織ったり、手で編んだロープなどを制作している建物、港、レストラン、カフェなどが完備してきました。 復元されたバイキング船で湾内を航海することもできます。

2013年に博物館が高潮の被害にあってから、文化省、博物館とロスキレ市はバイキング船を守るため、現在ある場所から少し離れた安全な場所に新しい博物館を建てることを決定しました。 2026年の開館を目指し、今年国際的なコンペを発表する予定と聞いていますので、デンマークや海外から著名な設計事務所が設計競技に参加するでしょう。 現在の建物は新しい博物館が完成しても取り壊さず、文化活動の場所に再利用されるはずです。

デンマークでは海の近くにオフィスビルやアパート建設するウオーターフロントの開発が盛んです。 コペンハーゲンの住宅不足を解消するため、50年間計画で海を埋め立て2万戸の住宅を建設し、人口約3万が住む人工島を作る構想があります。 これから先長い期間を考えると、気候変動による都市型の洪水や高潮などの自然災害は深刻な問題になるでしょう。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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■ 博物館の正面。

■ 博物館の正面。

■ 海岸ギリギリに建つ博物館。

■ 海岸ギリギリに建つ博物館。

■ 波がコンクリートの建物に打ち寄せるので、波の跡で黒く変わっている。

■ 波がコンクリートの建物に打ち寄せるので、波の跡で黒く変わっている。

■ 建物内部のバイキング船展示。

■ 建物内部のバイキング船展示。

■ 窓に向かって設置されている浸水防止対策の板。

■ 窓に向かって設置されている浸水防止対策の板。

■ 海に埋められていたので船は完全な形ではなく、木は破片になっている部分が多い。

■ 海に埋められていたので船は完全な形ではなく、木は破片になっている部分が多い。

■ 展示されている船とダイナミックな天井の長い梁

■ 展示されている船とダイナミックな天井の長い梁

■ 逆光を受けた船、人のシルエットが美しい。

■ 逆光を受けた船、人のシルエットが美しい。

■ つなぎ目のない長いコンクリートの手すり。

■ つなぎ目のない長いコンクリートの手すり。

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