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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  65

「エリック・クリスチャン・ソレンセンの自邸」

2021/6/5小野寺綾子 / ヘルシンガー


エリック・クリスチャン・ソレンセンの自邸

戦後デンマーク建築について書かれた本の中で、日本の伝統建築やアメリカの住宅から影響を受けたヨ—ン・ウッソンのローマハウスはもちろんのこと、ルイジアナ美術館、ハルドー・ゴンルソンやハンナ・ケアホルムが設計した自邸と並んで、エリック・クリスチャン・ソレンセンの自邸がよく紹介されています。 デンマーク建築の著書が何冊もあるアメリカ人のミカエル・シェリダンが戦後のデンマーク建築のベスト14選を選んだ著書「Mastervaerk」(2011年発行)の表紙にE.C.ソレンセン邸の白い天井に黒い梁の骨組みの写真が使われて、非常に強いインパクトを与えました。 最近この住宅が2年間の修理期間を終えて、オンラインで公開されました。 2019年春にRealdaniaがこの自邸を購入した直後に見学したことがあります。

エリック・クリスチャン・ソレンセン(Erik Christian Soerensen 1922年—2011年、以後E.C.ソレンセンと簡略)は王立建築アカデミーの教授をつとめ、代表作にロスキレ湾にあるバイキング船博物館(1969年)があります。
コペンハーゲンの北ゲントフト市にある自邸は1955年にE.C.ソレンセンが設計した家です。 1964に夫妻が離婚した後、妻と子供が1994年まで住み続け、その後建築写真家に渡りました。 自邸は本道から緩やかな道を上がったところにひっそりとあります。 坂道に沿って黄色いレンガの壁が続き、同色の高い煙突がそびえています。 道を登りきると左手に住宅、右手に物置小屋があり、その間を住宅から続く黒い平らな大きな屋根が覆っていますので、屋根は門の役割をしています。 庭に入ると広い空間が広がり、小石を敷きしめた前庭に高い松が数本植立っています。 細長い住宅と付随する元設計室がT型に結ばれています。

ウッツソンがローマハウスを設計した時、デンマークの伝統的なロの字をした農家の構造からインスピレーションを受けて、最初に車庫の部分を開放的にしたのと同じように、E.C.ソレンセンもハーフチンバー方式(デンマーク語でビンネグスヴァ—ク)と呼ばれる梁や丸太を漆喰壁や石で外壁を固めた構造で建てられたデンマークの伝統的な農家やアメリカで見た建築などを取り入れています。 1942年に王立建築アカデミーに入学した後、第二次世界大戦中は父親がナチスドイツに占領されたデンマークを逃れてストックホルムにいた関係で1944年にE.Cソレンセンもストックホルムの工科大学で建築を勉強していました。 この時、特にアスプルンドの代表作「森の火葬場」の造形に影響を受けました。 さらに民族博物館で1935年に日本から寄付された瑞暉亭(ずいきてい)の茶室も見ていました。 E.C.ソレンセンは1948年—49年にアメリカのマサチューセッツ工科大学で教鞭をとったことがあります。 滞在していた時、ミース・ファン・デル・ロ—エの機能的な美しさのある建築に影響を受けました。

設計室を含めた家の大きさは188�uです。 設計図を見るとすべてモジュールの配置で構成されています。 家の長さは16.8m、幅6.7m。 1つのモジュールは2.1mx3.35mです。 庭から居間を見ると8つモジュールが連続しています。旧設計室のモジュールの大きさは2mで、家の幅は4.2mで住宅より狭いです。 水平な屋根、モジュール構成、黒で統一された木造の家は王立建築アカデミーの同僚のハルドー・ゴンルソンが1958年に設計した自邸とよく似ています。

玄関は木のドアではなく、現在なら空き巣などでとても物騒ですが、内外から中が見えるようにガラスがはめられていて開放的です。 前庭に面した壁は黒色で、居間、食堂の窓は中庭に向かって開かれています。
修理は屋根の断熱材を強化して、Co2を25%削減するようにしました。 屋根を剥がした時、台所やトイレの上にあるガラスの採光窓も新しくしました。 窓ガラスは日本製の断熱真空ガラスで小さい空調穴があるものに変えました。 台所はこの時代よく見られるような半オープンキッチンで、戸が自由に開け閉めできます。 合理的な台所の棚や引き出しなどはそのまま保存して使い、ガスコンロを電磁調理器に変えました。 壁に付属した換気扇はオリジナルではないので取り外し、電磁調理器の中に換気扇の機能を埋め込んだものにしました。

広い居間には灰色のフリースが敷きしめられ、黒く細い柱、黒い梁が力強く交差する白い天井は思ったより低いです。 古い写真を見ると、居間にはポール・ケアホルムのソファ(PK31/3)やコーア・クリントのサファリチエアが置いてあります。 最初家が完成した時、居間と台所のある部屋は続いていましたが、後に仕切りを付けました。 トイレや浴槽はオリジナルを保存しました。 家は壁や作り付けの収納場所、ドアに木がふんだんに使われていて、非常に機能的です。 建物のプロポーションがきれいで、無駄な空間がありません。
旧設計室は別れた妻がアトリエとして使用したので片側を壁にしていました。 修理ではその壁を取り払ってガラスを入れ、左右から採光できる本来の窓に戻しました。  S.C.ソレンセンはランドスケープ設計の研究の本もあるように、造園に関心が強かったです。この家が建った翌年に家の周りに植える木や植物をラテン語名で書いた配置図を作っています。 見学した時は庭には雑草が茂って、木がたくさん植えてありました。 オンラインで見た庭は配置図に沿うように不要な木が撤去されたので、ずいぶんすっきりした感じです。


(注)写真は修理前(2019年6月)に撮影したものです。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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■ 細い坂道を登っていくと、左手住宅から伸びる屋根が右手の物置小屋までかかる。

■ 細い坂道を登っていくと、左手住宅から伸びる屋根が右手の物置小屋までかかる。

■ 長い軒が物置まで伸びる。

■ 長い軒が物置まで伸びる。

■ 入り口から旧設計室を望む。

■ 入り口から旧設計室を望む。

■ 玄関はガラス張り。左手に住居部、右手に旧設計室。

■ 玄関はガラス張り。左手に住居部、右手に旧設計室。

■ 旧設計室。壁を左右ガラス張りした。床を灰色に張り替えて、小さい台所を再生。

■ 旧設計室。壁を左右ガラス張りした。床を灰色に張り替えて、小さい台所を再生。

■ 住宅の軒の部分。

■ 住宅の軒の部分。

■ 居間より庭を望む。庭は草ぼうぼうで手入れがされていなかった。

■ 居間より庭を望む。庭は草ぼうぼうで手入れがされていなかった。

■ 居間の天井を交差する梁。

■ 居間の天井を交差する梁。

■ 居間から台所を望む。壁の仕切りは家が完成してから備えられた。

■ 居間から台所を望む。壁の仕切りは家が完成してから備えられた。

■ 居間の暖炉と本棚。

■ 居間の暖炉と本棚。

■ 天井からの明り取り窓。

■ 天井からの明り取り窓。

■ 壁と同じような木の収納棚。

■ 壁と同じような木の収納棚。

■ 機能的な台所は戸を開けたり、閉めたりできる。

■ 機能的な台所は戸を開けたり、閉めたりできる。

■ 庭から住居を見ると、モジュールの連続が分かる。ガラス窓の白い部分は空調を調節するのに開けることができる。

■ 庭から住居を見ると、モジュールの連続が分かる。ガラス窓の白い部分は空調を調節するのに開けることができる。

■ 庭に配置する木や植物が学名で書かれている。家のモジュールの寸法も記入されている。

■ 庭に配置する木や植物が学名で書かれている。家のモジュールの寸法も記入されている。

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