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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  38

「LOスコーレ」

2014/1/2小野寺綾子 / ヘルシンガー

28号でカアン&エベ・クレメッセン夫妻 (Karen & Clemmensen)の自邸を取り上げた時、同夫妻が設計したLOスコーレの建物について簡単に触れたことがあります。 この建物は、ヘルシンガーにあり、好きな建物の一つです。 日本からローマハウスを見学に来たデンマークの建築やデザインに興味がある方を、ご案内することがあります。

LOskole(エルオスコーレ)は1969年に職種別労働組合が加入する全国組織LO(Landsorganaisation in Danmark)が、組合員のために創立した、デンマークの伝統的な成人学校である国民高等学校の流れをくむ教育研修施設です。

1958年に設計コンペがあり、ヨーン・ウッソンが1等と3等をとりました。 1等を取った建物は、その当時としては斬新なコンクリートの16階の高い建物で、会議室などは、オペラハウスを思わせる半円形型の屋根をもつ低層部分からなっていました。 LO執行側はコンペで1等を取った高層案に難色を示し、ウッソンに3等を取った建物をアレンジしてくれないかと依頼します。 しかし、ウッソンはLOからの打診を断りました。 当時ウッソンはシドニーのオペラハウスの仕事とLOスコーレのすぐ隣の敷地にアパートを設計する予定もありました。 結局ウッソンの案の代わりに、2等に入ったクレメンセン夫妻とヤ—ル・ヘガー(Jarl Heger 1929-1998)が設計した案が採用されました。

1969年に建ったLOスコーレは、対岸にスウエーデンを眺めるなだらかな起伏のある丘に立っています。 外見を見ると、緑の芝生に映える白色の壁と茶色の屋根が続く低層でシンプルな建物です。 正面入り口へ続くアプローチにはいると、道に沿って両脇に建てられた宿泊棟の建物は、どこか日本の家屋を思わせるような軒が出て、懐かしい感じがします。 赤い手すりがあるレンガで作られた階段を上り正面玄関に入ると、庭に敷地が旧荘園だった時の面影を残す3本のブナの大木があります。 この木を建物の中心に配置し、ガラス張りの建物が正方形に囲込んでいます。 核となる本館建物に、受付、会議室、カフェ、食堂があります。 宿泊棟は、本館から渡り廊下をつなぎ、平屋の建物が並行に並んでいます。

初期に建てられた建物は、1950年代にデンマークの建築家が日本の建築から影響を受けた特色が良く出ています。 レンガで作られた内部の構造は、北欧の伝統を受け継ぎ重厚です。 しだいに、日本的な建物から南ヨーロッパの影響が見える建物に変化しています。

LOスコーレの建物は、1974年から2007年まで8回に分けて、増築されています。 30年間は、ヤ—ル・ヘガーが設計を担当していました。

20,000�uの施設は、迷子になるほど広いです。 215室の宿泊部屋、大会議室が2室、17室の中規模な会議室、食堂、バー、フィットネスセンター、遊戯室、シャワー室、サウナ、図書館、学習室などが揃っています。 建物は、外壁、内壁、床、天井、ドアや窓枠など細部まで丁寧に仕事が行き届き、完成度が非常に高いです。 レンガ施工、大工仕事、照明や電気の配置など各種の職種組合が、最高の技術を提供しています。 家具やランプはルイ・ポールセン社、アーネ・ヤコブセン、ボウエ・モーゲンセン、ウエーグナ—などデンマークを代表するもので統一されています。
このような贅沢な選択は、研修に来た若い組合員に、日常生活では体験できない洗練された機会を提供したい、というLO側の考え方が反映しています。

LOスコーレの素晴らしい点は、建築のほかに、膨大な現代芸術作品の収集があります。 建物中の壁と庭のいたるところに、1960年代から2000年代までLOスコーレが収集した著名なデンマーク人の芸術作品が飾られています。 収集作品は1000点を超えます。 作品は、美術館とは逆に、建物の一部として捉えられ、建築物に同化することが求められています。
絵画コレクターから見れば、廊下や部屋に飾られた作品は手が出るくらいに欲しいものですが、LO側はこれまで盗難にあったことがないと言っていました。

正面玄関のレンガで作られた階段は、ヘニング・ダルゴウ・ソレンセン(Henning Dalgaard Sorensen 1928-2013)の作品です。 彼は、建物の壁に幾何学的でリズミカルな模様の木製の彫刻や大会議室の天井に木で模様を装飾したり、広い空間にアクセントを添えています。 クレメッセン夫妻と作業をすることが多く、28号で紹介したように、夫妻が1972年に設計したプール(Kildeskovshallen)の入口の壁や庭の装飾などを手掛けています。

2008年にLOスコーレは閉校され、現在は、Konventum(コンベトム) と言う名前に代わりました。 組合色がなくなり、独立した研修センターに代わったので、個人でも宿泊できます。 結婚式や誕生日パーティ、会社や大学の研修などに積極的に貸し出され、労働組合が使うのは全体使用割合の20%だそうです。 機会があれば、是非ともLOスコーレに一度御宿泊ください。 既存のホテルと違い、質の高い建物や芸術作品を体験できます。
www.konventum.dk 英語版あり。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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建物の外観。細長い宿泊棟が続く。

■ 建物の外観。細長い宿泊棟が続く。

■ 建物の外観。細長い宿泊棟が続く。

日本的な軒がある、宿泊棟。

■ 日本的な軒がある、宿泊棟。

■ 日本的な軒がある、宿泊棟。

赤い手すりがアクセントの正面玄関。

■ 赤い手すりがアクセントの正面玄関。

■ 赤い手すりがアクセントの正面玄関。

建物の庭にある3本の大木.<br>奥の壁にヘニング・ダルゴウの絵が見える。

■ 建物の庭にある3本の大木.
奥の壁にヘニング・ダルゴウの絵が見える。

■ 建物の庭にある3本の大木.
奥の壁にヘニング・ダルゴウの絵が見える。

数回の増築を経て、建物の裏側は、南ヨーロッパ風な感じ。

■ 数回の増築を経て、建物の裏側は、南ヨーロッパ風な感じ。

■ 数回の増築を経て、建物の裏側は、南ヨーロッパ風な感じ。

宿泊棟と中庭ある彫刻。

■ 宿泊棟と中庭ある彫刻。

■ 宿泊棟と中庭ある彫刻。

ボー・モ—ウンセンの椅子と ルイポールセン社のビリヤードランプで統一されたラウンジ。

■ ボー・モ—ウンセンの椅子と ルイポールセン社のビリヤードランプで統一されたラウンジ。

■ ボー・モ—ウンセンの椅子と ルイポールセン社のビリヤードランプで統一されたラウンジ。

長い廊下に描かれた絵。

■ 長い廊下に描かれた絵。

■ 長い廊下に描かれた絵。

増築部分を結ぶ廊下と、ヘニング・ダルゴウがデザインした床のタイル。

■ 増築部分を結ぶ廊下と、ヘニング・ダルゴウがデザインした床のタイル。

■ 増築部分を結ぶ廊下と、ヘニング・ダルゴウがデザインした床のタイル。

LOスコーレから対岸に見えるスウエーデンを望む。

■ LOスコーレから対岸に見えるスウエーデンを望む。

■ LOスコーレから対岸に見えるスウエーデンを望む。

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