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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  33

「ビョン・ヴィンブレのアトリエ公開」

2013/2/1小野寺綾子 / ヘルシンガー

昨年秋からデンマークの芸術家ビョン・ヴィンブレ(Bjorn Wiinblad 1918 - 2006)のアトリエと自宅が記念館として、一般公開されるようになりました。
日本では英語読みで、ヴョルン・ヴィンブラドなどの名前で知られています。 姓名のWiinbladのDはデンマーク語で口の中でこもり、明瞭に発音しないので、ビョン・ヴィンブレと呼ばれます。 記念館はコペンハーゲンの北、ルンビュー(Lyngby)にある野外博物館のすぐ近くにあります。

彼の死後、残されたアトリエと自宅の管理費の負担のため、一時ビョン・ヴィンブレが収集した膨大な美術品や彼の作品がオークションにかけられるのかと、心配されました。 昨年、デザイン食器やカイ・ボイセンがデザインした木製の猿を販売するローセンダ—ル(Rosendahl)社がビョン・ヴィンブレの製品の権利を買い、新しい年齢層をターゲットとしたビョン・ヴィンブレの製品を売り出すことになりました。 金銭問題が解決したので、そのまま家とアトリエは記念館として残ることができました。

ビョン・ヴィンブレは1940年代から1980年にかけて焼き物、グラフィックデザインなど様々な分野で活動し、デンマークはもとよりヨーロッパ、アメリカなどで大成功をおさめた芸術家です。 商用で日本にも度々来ていたと聞いています。
ビョン・ヴィンブレがトレードマークのように、生涯好んで描いた絵や焼き物の女性と男性は中性的で、ふくよかな丸い顔に三角形をした鼻、アーモンド型の眼をして、像の全体が装飾的で忘れられない強い印象があります。
ビョン・ヴィンブレは1966年に、「青い家」(Det Blaa hus)と呼ばれる家を女性工芸家から譲り受けました。 名前のごとく建物の外観は水色のペンキで塗られています。

「青い家」はビョン・ヴィンブレが活動していた時のままに、保存されています。アトリエは、窯場と絵を描いた部屋に分かれています。 窯場の壁にはビョン・ヴィンブレが描いた大きな人物像のポスターや、彼が脳溢血で倒れる日まで書き込みしたカレンダーがそのまま掛けてあります。 棚や引き出しには、釉薬の原料が入った入れ物や調合を試した数々の試作品が整然と置かれています。 過去にここで多くの作品が生産されたことを物語っています。 部屋にあるものすべて、彼がデザインした物で囲まれています。 窓に下がるカーテンや床のカーペットは、ビョン・ヴィンブレが描いた人物像のモチーフです。
窓辺や電気窯の脇には、ビョン・ヴィンブレ自身が作った焼き物や最近完成した焼き物がたくさん並べてあります。 一瞥したところ、オリジナルの像と現在制作している像の区別がつかないくらい、二つは、よく似ています。

長年アトリエで働いていた女性が、ビョン・ヴィンブレが創作した焼き物を作っています。 コピー作品を良く見ると、顔の表情、特に目が少し変化に乏しいです。 ビョン・ヴィンブレが生きていた時は、人物の顔をビョン・ヴィンブレが直接描き、体の装飾部分は女性たちが描いていたそうです。
ビョン・ヴィンブレは、1940年から1943年まで王立芸術アカデミーでグラフィックを学んだ後、個人の窯場で焼き物を勉強しました。

アトリエにはビョン・ヴィンブレが白い釉を掛けた焼き物に、青色絵具を使って装飾的模様を描いた人物像が何種類も置いてあります。 その中に初期の頃(1940年代)に、もっと茶色や濃い緑色で描いた人物をモチーフにした絵皿が、幾つか置いてあります。 独特な技法で焼かれ、釉薬が盛り上がっています。 裸婦と毛むくじゃらな北欧のトロルが描かれた絵皿は、エロテックで、ピカソが描いたミノタウルスと女性のモチーフに通じるものがあります。 このような絵皿が、装飾的な人物像より作品として味があり、面白いです。 彼が描く人物の鼻は初期のころから立体的な三角形をしており、ピカソのキュービズム時代やモジリアー二の人物像から影響を受けたと推測されます。

グラフィックの部屋は、机が向かい合って二つあり、机の上に描きかけの作品が展示されています。 柔らかな日差しが入る窓辺に、焼き物や肖像が置かれています。

アトリエから続く家の内部は、残念ながら写真撮影ができませんでした。 個性あふれる各室内の飾り付けや、糸目をつけないで買った膨大な陶器の収集品は、ビョン・ヴィンブレの興味、彼の芸術の背後にあるものを知ることができます。

玄関は、ウイリアムス・モリスがデザインしたような青い壁紙で統一してあります。 玄関の右手にある客をもてなす食堂の壁は深い青色。 部屋の真ん中に、青色の丸いテーブルを囲んで8席の椅子があります。 青い壁に中国の染付やオランダやヨーロッパで、中国の染付を模して作られた東洋趣味の絵皿が、多く飾られています。 床のあちこちに東洋風な染付の大きな壺が置かれています。  天井や鴨居の部分には、ビョン・ヴィンブレが自らデザインした白地に青の絵の具で装飾したタイルが、ぎっしりはめ込まれていています。 窓側には青や白の様々な精巧なガラスの器が置かれています。  青で統一された部屋で、ビョン・ヴィンブレが繰り返し作っていた像は染付のように、青と白が基調色だったことが、納得できます。 室内にビョン・ヴィンブレの作品も数個置いてありますが、染付と並んでなんら違和感がありません。

2階にはいくつかの書斎や私的な部屋があります。
壁が黄色の部屋にも、下の食堂と同じようにたくさんの中国やヨーロッパの染付皿が掛けられています。 天井は食堂のように、ビョン・ヴィンブレがデザインした染付風のタイルがぎっしりはめこまれています。

暖炉がある部屋は膨大な蔵書と中近東の古い焼き物で溢れています。 深緑の色の壁の部屋は東洋的な収集品でまとめられていて、中国製のガラス絵や椅子、漆の獅子像や東南アジアの仏頭がおかれています。 陶芸の収集品の中に、デンマーク人の現代陶芸品もありますが、全体から見るとごくわずかです。 書斎にたくさんの本があるように、ビョン・ヴィンブレはテレビや機械類は嫌いで持たなかったそうです。 亡くなる2カ月前まで仕事をして、読書三昧だったそうです。

ビョン・ヴィンブレはスイス国籍をとり、スイスにもアトリエがありました。 愛用のポルシェでデンマークから往復したそうです。 しかし、晩年行くのが億劫になり、スイスにある収集品はオークションにかけてしまいました。 成功してたくさんお金を得たのに、お金に無頓着で、客のもてなしや好きな収集品にたくさん使ってしまったそうです。

ビョン・ヴィンブレは、愛情あふれる仲睦ましい恋人達をたくさん描きましたが、生涯独身で、家庭を持ちませんでした。 彼が描く仏像のように丸い顔は自己投影のように、良く似ています。 愛情を求めていたのは、ビョン・ヴィンブレ自身でした。

1960-70年代にデンマークで人気のあったビョン・ヴィンブレの絵は、時代と共にデンマーク人の興味やインテリアの変化によって、そぐわなくなり、関心が薄れるようなりました。 デンマーク人の家には、たいていこの時期にNymoelle社より発売された、恋人達の絵がモチーフの絵皿や灰皿などがあります。 これは、単色のプリント柄の大量生産品なので、今でも蚤の市にたくさん出回っています。

この窯場で現在生産されているビョン・ヴィンブレの焼き物(コピー製品)をアトリエで買うことができます。 小さい物で375dk(約5000円)、中くらいの像ですと3000dk(約42000円)です。 小判のリトグラフは1800dk(約25000円)から2500dk(約35000円)です。

ビョン・ヴィンブレ記念館のホームサイト(デンマーク語のみ)
Bjorn Wiinblads Kunstnerhjem http://bjornwiinblad.dk/

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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春以来庭の草がすっかり伸びて生い茂ってしまった。

■ 庭から眺めた青い色の家。 向かって右側水色の建物部分がアトリエ、手前左側の白い建物は住宅。

■ 庭から眺めた青い色の家。 向かって右側水色の建物部分がアトリエ、手前左側の白い建物は住宅。

玄関を入った所にある取り外されるストーブ。

■ アトリエの内部。 ポスターや初期の頃の絵皿も置かれている。

■ アトリエの内部。 ポスターや初期の頃の絵皿も置かれている。

取り壊される増築した部分。ヤコブさんが半分開くドアなと設計して作った。

■ 25年以上ビョン・ウィンブレの運転手と雑務一般を任されていた。今は記念館の管理人を務めて、案内役もするルネさん。

■ 25年以上ビョン・ウィンブレの運転手と雑務一般を任されていた。今は記念館の管理人を務めて、案内役もするルネさん。

内部から見た増築部分。

■ 日本の高島屋のサインがあるビョン・ヴィンブレの写真。

■ 日本の高島屋のサインがあるビョン・ヴィンブレの写真。

外から見た増築部分。

■ アトリエの壁に貼られているポスター。

■ アトリエの壁に貼られているポスター。

無残にも増築部分が引きちぎられるように、取り壊されてしまった。

■ グラフィックの部屋。バレエのコスチュームのデザイン画が置かれている。

■ グラフィックの部屋。バレエのコスチュームのデザイン画が置かれている。

居間に重機が入り、床のセメントや床暖房の設備を除去していた。

■ 白地に青い色で描かれた絵皿。三角型をした鼻、アーモンド型の眼を持つ、典型的な女性像と装飾的な柄。

■ 白地に青い色で描かれた絵皿。三角型をした鼻、アーモンド型の眼を持つ、典型的な女性像と装飾的な柄。

居間に重機が入り、床のセメントや床暖房の設備を除去していた。

■ アトリエで買えるコピー作品。

■ アトリエで買えるコピー作品。

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