■ -「目次」に戻ります - ■

デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  25

「4人の建築家が設計した自宅 その1」

2011/5/13小野寺綾子 / ヘルシンガー

4月、5月と続けて4人のデンマーク人建築家が設計した自邸の見学会に参加しました。
その4人の建築家は、アルネ・ヤコブセン(Arne Jakobsen)、カアン アンド エスケ・クレメンセン(Karen and Eske Clmmensen)、エドワード・ハイベア(Edvard Heiberg)、ベアトル・ウッセン(Bertel Udsen)です。

日本ではアルネ・ヤコブセン以外の建築家は、ほとんど知られていないかもしれません。
見学会を企画したのは、Realdania Byg(リアルダニア ビュグ)という2003年に創設された会社です。 この会社の親会社は、Realdania (リアルダニア)で、個人や企業が建物を建てる場合に資金を融資したり、投資する不動産会社です。

Realdania Bygは二つの事業があります。
一つは、デンマークの歴史的、建築的から見て非常にユニークで価値のある建物を買い取ります。
買い取った建物を本来の姿になるべく近いように修理改善して、その建物を個人や企業に貸し出します。 建物を借りた人は、管理を兼ねてその家に住み、年に一回ほど家主のRealdania Bygが企画する見学会で、見学者に家を公開する約束があります。
第二は、国内外の建築家や芸術家が設計した新しい建物への投資参加です。
昨年コペンハーゲン中心部に完成したイギリス人の建築家トニ―・フレトン(Tony Fretton)が設計したビルや2014年に王立図書館の近くにできるオランダのOMA建築家レム・コ―ルハ―ス(Rem Koolhaas)が設計する建物を所有しています。
Realdaina Bygが管理する建物は、1500年代から1800年、1900年代の建築物を中心に2010年まで建てられた城、荘園、学校、住宅など45件ほどあります。

Realdaina Bygは2005年にヤコブセンの自宅を買いました。
貸し出す前に地下室の湿気を除去し、屋根の葺き替をしました。 さらにレンガの壁、電気系統、台所、暖炉などを修理しました。
2007年4月に2日間だけ、この自邸と同社が所有している1929年にヤコブセンが設計した最初の自邸を一般公開したところ、4000人あまりが見学に来ました。
クラッペンボー駅から海岸に向かって徒歩5分の所にあるアルネ・ヤコブセン(1902-1971)の自邸は、1950年に建てられ、ヤコブセンは1971年に亡くなるまでこの家で暮らしました。

自邸から海岸通り(Strandvejen, ストランドバイイン)に沿ってヤコブセンが設計したベラベスタ住宅(1933−34年)、ベルビュー劇場(1935−36年)、が並んで立っています。
ベラベスタ集合住宅の前にある浜辺の白い建物や監視塔もヤコブセンが総合的な視点に立って設計したものです。 このあたりは1930年代から1950年代まで建てられたヤコブセンの建物が集まっていて、ヤコブセンの建物巡礼には、欠かせない場所です。
海岸通りは超高級住宅地で、ウアソン海峡をはさんでスウェーデンが良く見えます。
海辺に家を持つのがステイタスシンボルです。

ヤコブセンの自邸は、Strandvejen413番地にあります。
スーホルム 1(Soeholm 1)と呼ばれる5件の連続独立住宅の一番手前の建物です。 ヤコブセンは続けてスーホルム 1 の北側、西側にスーホルム 2(1951)、スーホルム 3(1954)を設計しました。
スーホルム1の住宅設計で一番大事だったのは、はるかにスウェーデンを望むウアソン海峡の風景、北欧人には大事な太陽と家が立つ前からある木の存在です。
どの家も隣の家がウアソンの景観と日照を邪魔しないように、建物がずれて配置されています。 白色のベラベスタが、戦前のモダニズムを象徴するヤコブセンの意気込みが感じさせる作品なら、スーホルム1住宅はヤコブセンが円熟度を増してデンマークの伝統にのっとった黄色いレンガを使用した煙突のある白い窓の家です。現在この家に夫婦と子供2人の家族が住んでいます。

ヤコブセンの家はほかの4件の家より少し大きめです。
前庭にはランドマークのように大きな木が2本あります。 玄関のドアに、ヤコブセンの名前が書かれた表札が残っています。 食事をするダイニングルームや寝室、子供部屋は思ったより広くはありません。 ダイニングから庭のテラスに出られます。 台所はアパ―トの台所のように狭いです。
ダイニングからモダニズムを彷彿させる真鍮のシンプルな手すりのある階段をのぼり、暖炉のある吹き抜けの2階の居間に上がると、大きい窓からゆるやかにカーブした海岸線が目に広がり、その先にグリーンランド探検で有名なクヌ―ト・ラスムセンを記念する白熊の銅像が見えます。
天井は傾斜していて、明かりとりの窓があります。 ヤコブセンが住んでいた時、暖炉の脇に大きいサボテンが植えられた植木箱ありました。 今はその箱に薪がはいっています。
引き戸がある居間の隣部屋に、それほど大きくない窓が二つあります。 窓は額縁の役割をしていて、眼下の風景が絵のように見えます。
この部屋はヤコブセンのアトリエに使われていて、オレゴンパインで作った戸棚がはめ込まれています。

地下室はヤコブセンの設計事務所でした。
ここからオックスフォード大学聖キャサリンカレッジ、SASホテル、国立銀行など名作が生まれました。
設計、製図用の机が並んでいた大きな部屋は、今がらんとしていて、会議ができそうな長いテーブルが部屋の真ん中に置かれています。
天井、壁は白色です。 脇の部屋はたくさん専門書がある夫婦の書斎や仕事部屋に変わり、奥に暖炉設備や洗濯機などを置いた部屋があります。

ヤコブセンは、熱心に庭の手入れしたことで有名です。 家ができた時に、300uの庭に植える予定の植物の配置図をみると、ラテン語表記で80種ほどの植物名が書かれていています。
日本の坪庭にあるような細い竹、笹、蔦、カラマツ、エリカ、クレマチス、ボタンや楓、糸杉、楡(にれ)、櫟(いちい)、イチジクなどの名前が確認できます。
鳥の水飲み場も用意されていました。 庭は花を観賞するのではなく、蔦や垣根に使う灌木で常緑のものが多く、どんな植物が建築に適しているのか試してみる実験室だったそうです。 今でもその面影が残っています。 長方形型に切りこまれた高低の垣根が、庭を細かく仕切っています。 この積み木のような垣根が庭に変化と奥行きを与えています。

見学した日は初夏を思わせる晴天で、ヤコブセンの家からウアソン海峡の風景がとても綺麗でした。
でも、海岸通りは、車の往来が激しく、庭にいると少し車の音がうるさく感じられました。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

enlargeenlarge  写真はクリックすると拡大します。

ベルべビュー劇場(1937年)と隣にあるレストランヤコブセン。

■ ベルべビュー劇場(1937年)と隣にあるレストランヤコブセン。
ヤコブセンのレストランでは、ヤコブセンがデザインした家具や食器で食事ができる。

■ ベルべビュー劇場(1937年)と隣にあるレストランヤコブセン。
ヤコブセンのレストランでは、ヤコブセンがデザインした家具や食器で食事ができる。

ベラベスタ住宅(1934年)

■ ベラベスタ住宅(1934年)

■ ベラベスタ住宅(1934年)

ベラベスタ住宅。

■ 手前ヤコブセンが手掛けた海岸の建物と道路を隔てたベラベスタ住宅

■ 手前ヤコブセンが手掛けた海岸の建物と道路を隔てたベラベスタ住宅

ベラベスタ住宅。 青い空に白い建物が良く映える

■ ベラベスタ住宅。 青い空に白い建物が良く映える

■ ベラベスタ住宅。 青い空に白い建物が良く映える

ヤコブセンの自邸がある、Strandvejen 413番地

■ ヤコブセンの自邸がある、Strandvejen 413番地
家の前はかなり頻繁に車が通る海岸通り。

■ ヤコブセンの自邸がある、Strandvejen 413番地
家の前はかなり頻繁に車が通る海岸通り。

デンマーク伝統の黄色いレンガ、太い煙突と白い窓のソーホルム1住宅

■ デンマーク伝統の黄色いレンガ、太い煙突と白い窓のソーホルム1住宅。

■ デンマーク伝統の黄色いレンガ、太い煙突と白い窓のソーホルム1住宅。

左手はソーホルム1、中央はソーホルム2

■ 左手はソーホルム1、中央はソーホルム2.
ソーホルム2の住宅の裏手はクラッペンボー駅に近く、電車から住宅の後ろが良く見える。

■ 左手はソーホルム1、中央はソーホルム2.
ソーホルム2の住宅の裏手はクラッペンボー駅に近く、電車から住宅の後ろが良く見える。

PAGE TOP

Copyright © 2006-2015  The Scandinavian Architecture and Design Institute of Japan  All rights reserved.