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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  12

「フィン・ユールの家公開」

2008/05/18小野寺綾子 / ヘルシンガー

 建築家であり、家具デザイナーであったフィン・ユール(Finn Juhl 1912―1989)の自宅が4月4日から一般公開されています。 アーネ・ヤコブセンが設計した有名なベルヴュー劇場、ベラヴィスタ住宅があるクラペンボー駅から、バスで7−8分ほど行った超高級住宅地にオードロップゴー美術館があります。 フィン・ユールの家は印象派の絵画収集で知られているその美術館の敷地内にあります。 2005年にイラク出身の建築家ザハ・ハデッドが美術館の分館を設計して話題を呼びました。

 フィン・ユールの家は分館のすぐ後ろ、垣根越しにあります。 芝生の庭に大小2つの建物が廊下を挟んでずれて立ててあり、外壁は白く、こじんまりした印象の家です。 第二次大戦中の1941−42年に立てられ、フィン・ユールが設計した最初の家です。 彼は1989年に亡くなるまでそこに住みました。

 2003年に二番目の妻(婚姻届はない)の死後、この家は約7百万クローナ(約1億5千万円)の価格で売りに出されました。 その家をインシュリンで有名な製薬会社ノボノーデスクの創始者の家族であるブリジット・リュンビュ・ピーダーセン(Brigit Lyngbye Pedersen)が膨大な遺産を相続していたので、フィン・ユールの家を買い取り、国に寄付したのです。  フィン・ユールの家を見学するには、正面のポートを入るのではなく、美術館の敷地から家の庭に入りますので、すこし違和感があります。 これは、開館にあたって公聴会を開いた結果、周囲が高級住宅地なので家がある道に見学者がうろついて迷惑をかけないためとのことです。庭の花壇が荒れて手入れがされていないのは、ちょっと残念でした。

 最初に正面玄関で靴にかけるカバーをもらいます。地下室を除き、居間、食堂、仕事場、台所などを見学することができます。 この家の最大の魅力は、室内をフィン・ユールが住んだ当時のままに、家具、敷物、絵画、書棚などをそっくり再現していることです。 室内を見渡すと、彼がどんなものに興味があり、どんなものを集め、どのような生活をしていたのか垣間見ることができます。 彼がこの家のために設計した椅子は、絵画や彫刻と同じくらい質が高いことが判ります。

 フィン・ユールの死後、二番目の妻は室内の家具を変えたため、公開にあたってもとあった家具を買い戻したりしました。

 訪れた日は五月晴れの大変天気がいい日でしたので、玄関からすぐ入ったテラスや居間に太陽が眩しいくらいさんさん入っていました。 各部屋に彼がこの家のために設計したたくさんの種類の椅子、ソファ、テーブルがおかれています。 私が気に入ったのは、書籍は太陽が部屋に入ると黄ばむので、日が入る壁に側に書籍棚が取り付けてあることです。

 フィン・ユールは若い頃美術史を勉強したかっただけに、彼が椅子を設計する時インスピレーションを受けた1930年―40年代の抽象、具象の絵画や彫刻などが部屋のあちこちに置かれています。 デンマークの画家ビルヘルム・ルンストロム(Vilhelm Lundstroem)の絵がお気に入りです。 居間にはルンストロムが描いた黄色いセーターを着て、青いスカートを履いた二番目の妻ハンナの肖像画が掛けられていています。その黄色、青色はフィン・ユールの家具の色に使われ、さらに白い家のアクセントとして正面玄関などに使われています。

 完璧主義者のフィン・ユールは家を設計してもただの建物ではなく、それに付属する椅子、ベッド、ランプ、食器など自分でデザインしたように家の総合性を求めました。 建築家、デザイナーとして好きなものに囲まれて、妥協しない生き方を文字通り実践しました。よくインテリアをみるとその人の人柄、生き方が現れるといいます。

 家の公開にあわせて4月4日から8月31日まで美術館の別館でフィン・ユール展をやっています。 椅子の設計図はもちろん、椅子、製作のインスピレーションを受けた絵画、彫刻、アメリカでデザインした冷蔵庫などが展示されていています。 水彩で描いた椅子の設計図などを見ると、この時代の建築家は本当に絵が上手いです。

 私は椅子が飛びぬけて有名ですので、長い間フィン・ユールを建築家ではなく、家具デザイナーと思っていました。 彼が生涯に設計した家は、自宅や別荘など数件しかなく、1955年に設計した映画館は1980年に取り壊されてしまいました。 フィン・ユールはSAS航空のエアターミナル、展覧会の会場作り、店の内装などたくさんの仕事をしましたが、残念ながらそれらは残っていません。

 フィン・ユールの椅子は高級家具です。 彼の中古の家具でも大変高いです。 中産階級の家具はせいぜいヤコブセンのセブンやアリンコ椅子などで、フィン・ユールの家具には手がでません。

 デンマークでも日本でフィン・ユールの家具がとても人気があることは、知られています。  2012年の生誕100年記念に、日本にフィン・ユールの家のコピーができる話もすでに3月末に発表されています。

オードロップゴー美術館のホームサイト:www.ordrupgaard.dk

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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分館でおこなわれているフィン・ユール展

■ 分館でおこなわれているフィン・ユール展

■ 分館でおこなわれているフィン・ユール展

フィン・ユール展 会場

■ フィン・ユール展 会場

■ フィン・ユール展 会場

庭から見た家(1)

■ 庭から見た家(1)

■ 庭から見た家(1)

庭から見た家(2)

■ 庭から見た家(2)

■ 庭から見た家(2)

肖像画が掛かる部屋

■ 肖像画が掛かる部屋

■ 肖像画が掛かる部屋

正面玄関から入る見学者

■ 正面玄関から入る見学者

■ 正面玄関から入る見学者

庭から見た家(3)

■ 庭から見た家(3)

■ 庭から見た家(3)

正面玄関の青色と黄色

■ 正面玄関の青色と黄色

■ 正面玄関の青色と黄色

太陽がさんさんと入る部屋

■ 太陽がさんさんと入る部屋

■ 太陽がさんさんと入る部屋

開口部の様子

■ 開口部の様子

■ 開口部の様子

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