■ -「目次」に戻ります - ■

デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  10

「オーフスの森万里子展」

2008/02/25小野寺綾子 / ヘルシンガー

 オーフス市に2004年に開館した市民自慢のアロスArosと呼ばれる美術館があります。
1997年にオーフスに事務所を置くシュミット,ハマー&ラーセン(Schmidt, Hammer & Larsen)設計事務所が美術館設計コンペで一位を取った建物です。 同設計事務所は、ブブラックダイアモンドの名称と呼ばれるコペンハーゲンの王立図書館の設計が非常に有名です。  アロス美術館は9階建ての茶色建物で、周囲にある茶色の煉瓦の建物と同じような色合いと高さなのでやや地味な感じを受けます。 美術館の外見は少し王立図書館の作りと似ています。

 美術館は前後二ケ所にある入り口から中に入ると、ちょうど9階建ての真ん中にあたる4階の玄関ホールと受付、売店に来ます。 建物の中は真っ白で吹き抜けになっており、螺旋状の階段はグッゲンハイム美術館の螺旋階段を思わせます。 アロスはデンマークの作家だけではなく、積極的に国際的に活躍する作家の作品を展示し、購入しています。

 このアロス美術館で昨年10月から今年1月末まで「Oneness」という題の大規模な森万里子展が開かれました。 森万里子(1967年生まれ)は、海外で現代日本美術を紹介するとき、村上隆、森村泰昌などと必ず紹介される若手作家です。 手元にあるTaschen 社発行の「Women Artists in the 20th-21st Centry」の本では物故作家のフリーダ・カーロやバーバラ・ヘップワースや現在活躍するシンデイ・シャーマン、キキ・スミスなど46人の女性芸術家を紹介した中で唯一森万里子が日本女性作家として紹介されています。 しかし、日本国内ではほとんど彼女の名前も聞いたことがなく、作品も見たことがないという人が多いです。 もし森万里子の名前や作品を知っているなら、よほど現代美術の動向に造詣が深い人です。

 森万里子は、20代で日本を出てロンドンの美術学校を卒業した後、活動拠点をニューヨークに移しています。 作品は欧州やアメリカで発表されています。 日本国内より海外の画廊、美術館で個展が多いです。私はこれまでデンマークやスウエーデンの美術館で、何度も森万里子の作品を見る機会がありました。 昨年春にオランダの美術館で展覧会があり、今年は4月にウクライナのキエフで個展があります。

 たまたま森万里子は私の恩師のお嬢さんにあたり、子供のころの森万里子を知っているので、オープニングに招待されました。 昨年10月12日にあったオープニングでは展覧会の名誉総裁であるフレデリック皇太子を迎え、オーフス市長、日本大使、ロンドンやイタリアの画廊関係者、日本、ニューヨークから駆けつけたゲストなどたくさんの人が来ました。

 アロスでは、1997年から2007年までに発表された作品が展示されました。 この展覧会の呼び物は2003年に発表されたWaveUFOとよばれるカプセルでした。カプセルには毎回3人しか入れません。 3人は左右の脳波を測る測定器をつけ、カプセル内でコンピューターグラフィックをみる体験です。 カプセルはイタリアのフィアット社が製作、エンジニア、脳波の専門家、コンピューター、音楽担当など何人もの人が協力して作り上げられたものです。

 森万里子の作品はこの10年で大きな変化を見せています。 初期は秋葉原、新宿の街角に本人がサイボーグの衣装を着て隔離されたように立ち、そのメッセージは日本社会の批判などを織り込んだ作品が多かったです。 その後、夢殿をモチーフにしたドリームテンプル、熊野那智の滝の前で踊る巫女姿になったり、または菩薩姿になったりと、仏教、神道など宗教世界からインスピレーションを得てメッセージを伝えるようになりました。 最近の作品は、自分が主役として作品の正面に出てくるのではなく、縄文時代やケルトの環状列石の写真やオブジェで、その思いは遙か古代世界にさかのぼっている作品です。

 日本人が世界で芸術作品を発表する時、できるだけ日本的なものを排除する傾向の作家が多い中、森万里子の場合は、逆に自分のルーツや文化を求め、日本人の社会にまだ身近にある仏教、神道などを創作の根源にしています。 作品はオリジナルのコピーではなく、コンピューターなど最新のテクノロジーを駆使した森万里子の宗教で精神的な世界です。 現代美術はどれも似通っていて、国籍不明な作品が多い中、森万里子の作品は非常に日本的、東洋的で宗教の神秘性もあり、外国人が日本の現代美術を理解するのに入りやすいかも知れません。 森万里子が現代美術世界に知られたのは、1997年にベネチアビエンナーレの北欧館に、自分が天女を演じた作品を発表して賞を貰ったからです。

 名誉総裁の皇太子は熱心に展覧会を見て回り、頭に脳波の器具をつけてUFOに入りました。 午後8時から美術館で皇太子を交えて始まった晩餐会は非常に和やかに行われ、食事の途中にスピーチがあったり、武満徹のピアノ曲が演奏されました。 会がお開きになったのは深夜1時近くになり、皇太子は終始ご機嫌でした。

 アロスの展覧会は新聞にも好意的に大きく取り上げられ、大変好評の内に終了しました。


(編集 注)
アロス・オーフス美術館 Webサイト
ARoS Aarhus Kunstmuseum

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

enlargeenlarge  写真はクリックすると拡大します。

アロス美術館

■ アロス美術館

■ アロス美術館

美術館内部

■ 美術館内部

■ 美術館内部

皇太子を迎えてオープニングセレモニー

■ 皇太子を迎えてオープニングセレモニー

■ 皇太子を迎えてオープニングセレモニー

オープニングセレモニーで挨拶する森万里子

■ オープニングセレモニーで挨拶する森万里子

■ オープニングセレモニーで挨拶する森万里子

UFOの前に立つ森万里子と美術館のキューレター

■ UFOの前に立つ森万里子と美術館のキューレター

■ UFOの前に立つ森万里子と美術館のキューレター

UFOに入る人を助ける助手

■ UFOに入る人を助ける助手

■ UFOに入る人を助ける助手

最近の作品、環状列石シリーズ

■ 最近の作品、環状列石シリーズ

■ 最近の作品、環状列石シリーズ

PAGE TOP

Copyright © 2006-2015  The Scandinavian Architecture and Design Institute of Japan  All rights reserved.