NO.23号で書いたように、Realdaia Bygが2011年4月にヤコブさんの家を買い取りました。 5月上旬、改修工事前に家の内部を見せる見学会がありました。
Realdaia Bygはこの家の改修工事の責任者として、同会社の女性建築家リス・ユール(Lise Juel)を任命しました。 この建築家は、ヨーン・ウッソンの息子で建築家であるキム・ウッソンの設計事務所やオルボーにあるウッソンセンターで働いた経験があります。 最近はマジョリカ島にある神殿のような形をしたヨーン・ウッソンの自宅の修理に関わったそうです。
ヤコブさんは建築家になる前、最初に大工の修業をしたように、自分で物を作るのが好きな人でした。 普通でしたら家具は既成品やデザイナー家具で済ますところですが、家にはヤコブさんが自ら設計して作った家具や備え付けの棚などたくさんありました。
ヤコブさんの家は、生前何度も訪れたことがあり内部を良く知っていたつもりです。 窓の白いカーテンがすべて取り外され、庭に面した大きい窓から、太陽がさんさんとそそぐ家に入ると、こんなに居間が明るく、広かったかしらと思ったりしました。
空っぽになった居間を見て、ここにはヤコブさん自作のテ—ブル、椅子、本棚、棚や簡単な大工仕事ができる装置がついた作業机があり、壁に息子や孫が描いた絵や親から相続した油絵、趣味のヨットの模型など飾られていたと、居間がどんな様子だったのか思い出しました。 奥さんも物を捨てない人でしたので、家は雑貨や新聞、本などであふれていました。
見学会では、女性建築家がどのようにRealdaia Bygが家を修理するつもりなのか説明しました。 建物は少し高台に立っています。その高台は建物が立つ前はゴミ捨て場だったそうです。 そのため地盤が軟らかく、居間の土台部分が少し傾いているのでそれを直します。
玄関を入ってすぐに暖房室の前に薪ストーブが置いてあります。 このストーブは邪魔なので取ります。 その代わり、家に断熱材をたくさん入れて、元からある床暖房だけで暖める予定です。 古い床暖房設備は部屋を20℃ほどに暖めるのに時間がかかります。 夏に床暖房を止めますが、雨で急激に気温が10℃前後に下がった時や冬の厳寒の時は、薪ストーブが早く部屋暖めてくれます。
台所は、引き出しなどは保存します。 調理台のステンレスを張った部分を木に直します。 窓側にあったオーブンを冷蔵庫があった側に移動させ、配置を入れ替えます。 オーブンや冷蔵庫も新しいものにします。 ヤコブさんは足が悪かった奥さんが物を取り易くすいように、たくさんの台所道具を棚の下から釘で下げていました。 たくさんついている釘も取り払います。 窓側に付いているヤコブさん手製の半円形のテーブルを取ります。 壁についている丸いランプは暗いので取り替えます。 私の家でも同種のランプを使っていますが、照明は弱く手元が見えにくいです。 ヤコブさんの家で唯一共同緑地が見渡せるのはこの台所の窓で、ここから土地の低い部分にある私が住む家が良く見えます。
洗面所では、タイルの浴槽を取り払って、シャワーだけ浴びる装置にします。 開き窓の覆いも取ります。 ヤコブさん手製の棚や洗面化粧台は保存されるのか分かりません。
玄関脇には手製の靴入れ、コート入れがあるので、修理して保存します。 ヤコブさんたちは玄関を入った所にある小さい部屋を書斎として使っていました。 ローマハウスでは、この小さい部屋の壁を取り払っている家が何件かあります。 ヤコブさんは、書斎の壁を階段のようにギザギザに模様にして切り、部屋の半分中が見えるようにしていました。 この階段状のギザギザが、庭に面した二種類の窓に繰り返しに使われているので面白いので保存することにしたそうです。
居間や台所で随所に見られるように、ウッソンは、白い壁と支える柱や横木の部分などに木材を使っていました。 これが部屋ではアクセントになっています。 特に居間にある台所を隔てる開き戸部分は、白い壁と木目が美しいです。 床の素材を新しく張り直し、玄関の床はコルク、居間の床はリノリウムにします。
ローマハウスでは居間の大きな窓などを、断熱効果のあるペアガラスに取り変えている家がたくさんあります。 文化保護委員会は、以前はペアガラスに変える事を簡単に許可していましたが、現在は建物の総合性を尊重しているので、ペアガラスの交換に難色を示しています。 ヤコブさんのところは、居間や部屋の窓は本来あるガラスを二枚合わせた窓です。
庭には以前大きな松の木が3−4本ほどあり、枝が庭の全面を覆っていましたので、ほとんど庭に日が当たりませんでした。 今回庭から見る近所の屋根の風景が新鮮でした。 木が取り除かれて、庭は明るくなりましたが、ヤコブさんが作った鳥の巣箱、物置が空のまま崩れた状態であるのは、心が痛みました。 これもすべて撤去されるでしょう。 庭にはたくさん物が置いてあり、木の陰だったので、なぜ壁の一部を白く塗っていたのにも気が付きませんでした。 いくつも木の切り株の残りがあるので、庭の地面は平らではありません。 人が住まなくなって雑草が生い茂ってしまいました。
夏から秋まで修理工事に入ります。 ヤコブさんの家が売り出されても長く買い手がつかなかったのは、家が安くても土台、床暖房などの修理費用が掛ることでした。
不動産価格は1.945.000クローナ(約2千900万円)だったと思います。
Realdania Bygの予算では、保存する家の購入費は10ミリオンクローナ(約1億5000万円)、修理費は6ミリオンクローナ(約6000万円)なのだそうです。これまで、Realdania Bygが購入した建築家の自邸は高級住宅地にありましたので、購入価格は妥当な額です。 ヤコブさんの息子や娘さんからRealdaida Bygが家をいくらで購入したのか聞いていませんが、同会社の購入費をかなり下回っていた額だと思います。
10月上旬ごろ修理を終えた家の公開予定があります。 その後、Realdaia Bygが名建築家の自邸を一般に貸し出しているように、ヤコブさんの家を入居希望者に市場価格で貸す予定です。
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写真は全て小野寺綾子氏撮影
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