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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  20

「ローマハウス」

2009/10/26小野寺綾子 / ヘルシンガー

夏休みにしばらく日本に帰省して8月中旬にデンマークに戻りました。 不在中に正面玄関の上に大きな蜂の巣ができていました。 初め玄関の巣は小さい巣でしたが、夏にランプと見違えるほどの大きさになっていました。 蜂は家の庇(ひさし)の板の隙間からさらに奥に入ってよく巣を作ります。 春先に確認しただけで玄関の巣以外に2つ巣がありました。 玄関の巣に蜂は住んでいない様子ですので、もっと寒くなったら除去するつもりです。

暖冬ですと3月中ごろから蟻(アリ)が台所の床から出てくることがあります。 床暖房なので温かいからでしょう。 この時は中庭や家のまわりに蟻駆除の薬をまいたり、蟻が出てくる柱と床の継ぎ目や蟻の通り道にシナモンをまくと数日で蟻はいなくなります。

8月末にローマハウスに住み、久しくしていた建築家のヤコブさんが86歳で死亡なりました。 父親が画家だった家に育ったヤコブさんは寡黙な人で、浮ついたおせいじなど言わない大変実直な人でした。 ヤコブさんは、最初大工の修行をした後で王立建築アカデミーに入学しました。 昔はデンマークでは建築家になるには、大工など職業過程を経て建築家になる人が多かったようです。 フィン・ユール事務所で短期間働いてから、ウッソンの設計事務所で働くようになりました。

ヤコブさんはウッソンがシドニーにオペラハウスを建設着工した1965年、滞在年数は長くありませんでしたが、シドニーに赴任したことがあります。 ヤコブさんより後に出発した家族は、まず列車でデンマークからイタリアのナポリまで行き、そこから船でインド洋を通ってシドニーに渡ったそうです。

ローマハウスの自宅には自分がデザインした椅子や家具、両親から受け継いだ絵や古い家具が置かれていました。 ヤコブさんは25年ほど前に日本に行ったことがあります。 京都はもちろんのこと、佐渡で鼓童の太鼓を聞いたり、秋田県角館市で桜皮細工の職人を訪ねました。 最近は持病のパーキンソン病が進み、自宅でホームヘルパーに来てもらって世話を受けていました。 春から体が弱ってあまり動けなくなったので、特養老人ホームに移っていました。

冬季に共同緑地にある木の葉が散ると、家の居間から高台にあるヤコブさんの家が良く見えます。 ヤコブさんが亡くなったので、古くからローマハウスに住んでいた人がまた1人居なくなってしまいました。

日本から見学に来る方からよく、ローマハウスは普通の集合住宅とは違うので、どのような職業の人が住んでいるのかと聞かれます。 特にデザイナーや建築家がたくさん住んでいるわけではありません。 年金者、公務員、銀行員、事務員、教師、保育士、医者など職種は多様です。 特にデンマークの社会を反映して離婚後子供と住んでいる母親や単身者が多いです。 男性同士が住んでいる家もあります。 住宅ができた当時は低所得者向きの住宅だったので、市内の造船所に勤める若い夫婦が多かったようです。 以前は何人も建築家が住んでいましたが、それぞれ引っ越してしまい、ヤコブさんのようにウッソンの事務所で働いていて自分の建築事務所を持っていた人と工科大学に勤めていた人が2人住んでいます。 2人とも年金者です。

家の価格は、ウッソンの知名度や家の広さ(約100-120�u)や広い地域のどこに家があるかによって微妙に異なります。 一般の庭付き一戸住宅に比べて、ローマハウスの住宅は面積が狭い割にすこし高めで、約5千万円から6千万円です。 この20年で住宅は3倍に値上がりしています。

家が高かったので、若い夫婦の入居より、お金に余裕のある年配の人が家を買う傾向が続きました。 新しく引っ越してくる人は安定した仕事を持っており、年金者は大きな家を売って儲けたお金でこじんまりしたローマハウスを買うようです。

デンマークでも特にコペンハーゲン市やその北部地域では、世界的な金融危機前までこの15年間住宅の価格は暴騰を続け、売り手市場でした。 今は少し落ち着いたものの住宅価格は低迷していて、私の家の近くの家は一年も買い手がつきませんでした。

60件の家はなだらかな丘の上と下、小さい湖の脇、林の近く、袋小路、一般道などに分散して建っています。 ですから庭や台所の窓から見える眺めがそれぞれ違います。 中庭から湖が見えて眺めがよかったり、あるいは部屋からほかローマハウスの建物や緑地の借景が見えたり家が建っている場所によって、値段もさることながら、すぐ売れる家と買い手がつくまで時間が掛かる家があります。

近所の1年以上も買い手がつかなかった家は、緑地から家が引っ込んで建っているので居間から隣の壁や屋根しか見えず、庭から広い展望がありませんでした。 ヤコブさんの家もしばらくすれば、子供たちが遺品を整理してから売りにでることになるでしょう。 今、ヤコブさんの家のほか2件売り出し中です。

10月上旬2日間あった住民が共同緑地を掃除する共同作業では、8月に近くの家に越してきた人が前庭にあった樹齢40年の松を2本伐採しました。 車庫を改造して部屋にしたので、松の木が車の置場に邪魔になったからです。 ローマハウスでは居間が広く約40�uですが、狭いトイレと台所の他、部屋が大小3つしかありません。車庫の上にある天井裏は狭く、地下室もありません。そのため車庫を寝部屋などに改築する人が多いです。 増築できる部分は限られています。建物が国の保存指定を受けているので、国内の保存建物を管轄する部署に設計図を提出して許可を貰わなければなりません。 部屋に改築された車庫は、車庫の扉の下の床部分にレンガがおかれているので外見からわかります。車庫がない車はたいてい家の前や道に横づけされています。

私の家では、1991年に車庫(約12�u)を増築しまた。 増築できる面積は6�u、屋根の角度も決まっています。 車庫に古い車を入れ、ヨットや大工仕事の道具を置く物置として使っています。 でも、増える荷物などのために車庫を部屋に改築したいです。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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9月上旬に共同緑地の伸びた草が、機械で刈られた

■ 9月上旬に共同緑地の伸びた草が、機械で刈られた

■ 9月上旬に共同緑地の伸びた草が、機械で刈られた

夏に大きくなった玄関の蜂の巣

■ 夏に大きくなった玄関の蜂の巣

■ 夏に大きくなった玄関の蜂の巣

亡くなったヤコブさんの家

■ 亡くなったヤコブさんの家

■ 亡くなったヤコブさんの家

近くの家で伐採された樹命40年の松

■ 近くの家で伐採された樹命40年の松

■ 近くの家で伐採された樹齢40年の松

車庫の床が高くなり、部屋になった部分

■ 車庫の床が高くなり、部屋になった部分

■ 車庫の床が高くなり、部屋になった部分

車庫の屋根に落ちた たくさんの松の葉

■ 車庫の屋根に落ちた たくさんの松の葉

■ 車庫の屋根に落ちた たくさんの松の葉

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